2015/06/29

カブトエビ

子供の頃
 私が子供のころ、テレビなんぞまだ家庭に普及していなかった頃、昭和30年代。
あの頃、私の家のまわりの路地の路面は土である。放し飼いが当たり前の犬はそのへんにウンコしまくりで、ウンコはあちこちに転がっている。雨が降るとウンコは地べたに吸い込まれる。日のあたらない路地では赤い色をしたベンケイガニがこそこそと歩いているのを見かけることもある。見つけた時は、ゆっくりと歩いているが人が近づくとすっとんでどこかに隠れる。
路のすみっこにはアリはもちろん、マルムシ、ワラジムシがはい回っていた。土を1/3ほど入れたガラス瓶に、こいつらを入れて「動物園」と称して飼っていて近所の友達に自慢してたなあ。アリは10匹ほど入れておくと狭いガラス瓶の土に孔を掘って巣を作る。ビンの内壁にそって孔を掘るので巣の中身が丸見えだ。それにしても、無作為にとらえられた10匹ほどで新規アリ家族としての統制がとれるとは不思議であるが本当である。

もちろん、路地裏の虫をつかまえるだけが子供のころの趣味だったわけではない。子供のころは子供らしく、野原や森の中や海で遊ぶことのほうが多かった。

冬。
山や池の土手で少し大きな石を持ち上げるとシマヘビがとぐろを巻いて眠っていたり、池の底にある葉っぱや朽ちた木の下にカメがいたりする。カメは真冬だから動かずに眠っているはずなのに水の中でどのようにして呼吸してるんだろう。何ヶ月も息をしないのか。子供ながらにそんなことを考えたりした。
そうそう、思い出した。カマキリの卵事件。まだ寒い時期、細い枝に産み付けられた卵のカタマリを家に持って帰ってカゴに入れていた。もちろん、卵が勝手に逃げ出すことははないのでカゴに入れておく必要はないのだが、子供が生まれたら逃げ出さないようにとの配慮だ。
暖かくなって、子供が生まれたね。いっぱい生まれた。カマキリの子供は想像したより小さい。配慮が足らなかった。カゴの隙間からどんどん逃げていく。部屋は子カマキリだらけになった。

夏。
海である。背中の皮が日焼けで二度むけする。海底の砂を掘りおこすとアサリが無数にいた。大げさではなく無数だ。
カワハギの子供やヨウジウオは、海藻の陰や岩の陰でじっとしている。危険を感じて逃げる時はすっ飛んで逃げるが、ゆっくりゆっくり1秒間に10センチメートルほどの早さで近づくと気づかれない。さらにゆっくりゆっくりと手を近づけて、ふいにシュワッと掴むと素手で捕まえることができる。波打ち際近くの砂浜に穴を掘って、簡易水族館みたいにして遊んでたりした。
 そして、森や野原では、高い木の上に隠れ家を作る、クワガタムシをとる、セミをとる、キリギリスをとる、トンボをとる。キリギリスは食べ残しのスイカの皮の部分と一緒にカゴに入れておくとスイカのヘタをかじりながら「キリギリース・チョンッ」と昼の間、鳴いてる。ちなみに、キリギリスのなき声は、「ご破算で願いましては ・・・」と、算盤(そろばん)をリセットする時の音に似ている、が算盤の音を聴いたことがない方も多いかな。
 話は戻ってトンボ。トンボは広い場所が好きだろうからと蚊帳(かや)の中に放す。その中を飛び回るに違いないと思いきや、まだ元気があるはずのトンボはいっさい翔ばず。トンボは明るい方を背にして翔ぶというのは大人になってから知った。
さらに、池や川では、オタマジャクシ、アメリカザリガニ、テナガエビ、ミズカマキリ、タイコウチ、ゲンゴロウ、ガムシ、マツモムシ・・・つかまるものは何でも家に持ち帰って飼っていた。ヒルは、つかまえずとも血を吸うために足に何匹もくっついてくるが、持ち帰って飼う気にはならなかった。

さて、表題のカブトエビ
 とはいえ私は、特別に虫好きなわけではない。ほとんどの男の子がクワガタムシやトンボが好きなように、私もそのひとりだっただけだろう。でも、カブトエビは好きだったな。60歳を超えた今でもカブトエビは哀愁の虫だ。虫といっても昆虫ではなく、大きなミジンコみたいな生き物だけど。

水田のカブトエビ
カブトエビ 淡路市の水田にて(2015年6月29日)
うまく撮影できていないので ちょっと分かりづらいね。
1匹だけを拡大してみた。
1メートル四方に50匹ほどいただろうか。
定年で会社を辞めてから早朝に散歩に出かけることがある。散歩の途中、まだ背の低いイネが並ぶ水田を見るたび「昔はカブトエビがいっぱい泳いでいたよな」と、懐かしく思いつつ定年後の2014年、1度めの6月は過ぎた。
そして、2015年 2度めの6月、やはり「昔は水田にカブトエビがいっぱい泳いでいたよな」と、カメラをバックパックに入れてダラダラと歩いていたりした。
勝手な想像だった。昔は、小川や溜池にいろんな生物がわんさかといたが水質が云々でいなくなった、と勝手に世間の情報を鵜呑みにしてた。6月初旬、水田をちょっとだけ見たが哀愁のカブトエビはやはりいなかった。
6月29日、いるはずもないだろうけど、もう一度 念入りに見てみよう。ひょっとしたら1匹だけども と思いつつ、畦(あぜ)に座り込んで水面下を見た。いたんだね、カブトエビ。それも、昔と変わらずいっぱい。泥をかき回したり、仲間とからみ合ったりして元気に泳ぎまわっている。念入りに見るまでもなく、水面近くに顔を近づけるだけでカブトエビの永久なる繁殖を見ることができたのだ。
 ああ、そうだ。カブトエビは人類が誕生する以前の遥か昔から生きてきた。何十年かの間に、そう簡単に消えてしまうこともあるまい。冬の間は卵で土の中、初夏になり水に浸ると生まれてくる。中学生時代、高校生時代、会社勤めの何十年間、こいつを見たことはなかったが、その間もカブトエビの野郎は毎年とぎれず産まれてきてるんだと知った時、なんか嬉しくて30分ほど水田の中を見ていた。 2億年以上もの間、子孫を残してきたこの小さな虫。人間どもは生きている化石とやら勝手なことを言っとるが、そんな発言をする人間どもの数十万年の歴史こそが浅すぎるんだよね、小さすぎるんだよね。

 それにしても何ですな、ちょっと覚めた目で見てみると、水田は人間が作ったものだし、カブトエビは水田にしかいないのかな。もしそうだったら、なんかおかしい。人間の生活活動としての稲作は、数千年前から。カブトエビは2億年から。カブトエビの棲息は水田。
うーむ、この謎は解けそうもない。外国では水田以外にも棲息してるのやろかね。


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